びぶりおてか

私家版 Caffè Biblioteca

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POLKA DOT WONDERLAND COMME DES GARÇONS

ARRIVES 22ND NOVEMBER

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ギャルソンといえば、DC世代の私にとっては川久保玲氏なんだが、引退目前ハートに目玉が付いたキャラモチーフがヒットした頃から、私の知っているギャルソンが行方不明になっていたなー。 

今回のテニエル画のアリスも川久保時代だったら、もっとハートに食い込んだんじゃないかな、とか。個人的には水玉模様が苦手なので、ミニーちゃん柄ワンピースのアリスが、本気なのかアイロニーなのかと片眉上げて見てしまう。

 

テニエルのアリスとディズニーのアリスは、別物なのだよ。

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伯父がタカラの重役だった。
あのリカちゃんのタカラ。
なので、家には常に未開封のリカちゃんがあったし、リカちゃん(本体)じゃなくて、リカちゃんのドレスが欲しいといっても、ゴージャスなドレスを纏ったリカちゃんごと届けられる。
何のジョーダンだったんだろう。
 
それだけでなく、私は親戚中で最初の女子だったせいもあるのか、女児用玩具には事欠かず、お陰で物欲の全くない、ちょっと心配な位大らかな子供だった。
 
そんなプロセスで、子供らしいおねだりの仕方をしらずにきた5歳児。
人生で初の独占欲を伴う物欲にスイッチを入れたのが、
このテニエルのアリスだった。
 
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美しい装幀と外箱。
物語を象徴する扉絵。
ページ番号を記すアイコンが、章のテーマに添わせてある。
豊富な挿絵のと、要所に差し込まれているカラー紙の彩色画は、
そこまで読み進めたご褒美だ。
 
その本は6つ上の兄の本だった。
自分の絵本とは違う、兄たちの本棚に並ぶ重厚で大人びた本の背が羨ましく、
彼等の留守中に盗み見るのが、日々の楽しみと特権の5歳児。
それらの中でも一際この幻想小説は、精々目一杯に開花させた乙女心へ、ぐりっと刺さった。
兄達のものに勝手に手を出した痕跡を残すわけにはゆかない秘事。その禁を犯してでも、この本持ち出し自分の机と椅子の空間で、まるで瞑想に入るが如く。
  
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この本との特別な時間を追う毎に、とうとう芽生える少女の物欲、独占欲。
「我が物にしたい」と願った。いや、思った。
 
早く事を運ばねばならない。
この秘事が彼等にばれたら、本は速攻で取り上げられる危険性も察知している。
なにしろ、猫っ可愛がりの頃を過ぎ、口達者で、ませて、生意気に構築された5歳の妹の地位は『斉藤こずえ』の異名を授り、二人の兄の間に新しい結束力を持たせるに至っていたからだ。
 
速やかに、スムーズに、時と空気を十分に読む必要がある。
最悪の事態を考えて、最低限の退路を作っておく必要がある。
もちろん、退路は手ぶらであってはならない。失敗は許されないのだ。
 
結果、5歳児の取った手段は恐ろしいかな、要所に差し込まれているカラー図版だけを持ち去る準備をしておく事だった。
幼児のキャパで考えるリスクヘッジの斬新さには今でも恐れ入る。
 
彼等がこの本にそれほどの執着がない事もわかっている。しかし、私が欲しいと言えば、絶対に手の届かない棚に移動されてしまうに違いない。
それ故終着した答えは、
 
『好きな図版だけ抜き去っても当分はバレない。』
 

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日々、覚え立てのカッターナイフを片手に自室で着々と準備を進める5歳児の異様な姿をウチのマミー、知ってたんだろうか。。。

 

ゲリラ準備も一段落得るを目前に、この5歳児、流行病に倒れます。

お多福とか水疱瘡とかのどれか。。。

この時、早々に人生で最大の女子力を発揮してしまう。

病床を見舞ってくれた兄の手を取って、切れ切れの言葉であの本をねだったのです。

日頃の因縁をついつい忘れてしまう男のスキを5歳児は即座に読み取り、「今だ。」と思ったのです。

いともあっさり、次の瞬間にはあの本が枕元に置かれていました。

おにーちゃま、ごめん。

箱の中でばらばらになっている本を目の前で開くわけにもいかず。

静かに目を閉じました。

 
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そうして、今も私の手元に残るこの本。
テニエルの”不思議の国”は、ひらがなをやっと追えるようになった幼児の心さえ、鷲づかみにする。
カリカリした線で微細にまで描きこまれている世界の奥行き。
キャラクターの表情も、難解な世界も、さも平静な空間を装い、当たり前のようにその中を生きている。
この世界に引き込まれて、これが現実空間とひと続きであることを願って止まず、夢を見続ける。本の扉が閉じられるまで。
 
 こどもの世界文学4
訳  高杉一郎 
挿画 ジョン=テニエル
昭和47年8月 講談社
 
 今ではほとんど見られなくなった、作り込まれた装幀の児童書。
この頃の本には、著者の思いや編集に携わった人たちの思い入れも、ちょっとした処に美意識が感じられ、その中にある「特別な世界」を包む
宝箱の役を、十分に果たしていた。
それが、当時の児童書は割と当たり前だった様にも思う。

 

小学校に上がったクリスマスに買ってもらった『鏡の国のアリス』。
高学年用だったから漢字も全く読めなかったが、
大人の本を手にした自分にうっとりしていた。
この福音館書店のシリーズも、どれも挿絵がとても良かった。
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福音館古典童話シリーズ
訳  生野幸吉
挿画 ジョン=テニエル
1972年4月 福音館書店