びぶりおてか

私家版 Caffè Biblioteca

2015年2月公開 ヴァチカン美術館 4K/3D 天国への入口 試写会にいってきた。

来年2015年2月に公開される4K/3D映画

ヴァチカン美術館-天国への入口を観てきた。

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映画は、複数の作品にスポットを当て、現在の映像技術最高の再現性でそれらの作品のストーリーを語る。

冒頭、3Dグラス掛け始めの違和感を解消するのは、

幻想的な螺旋二重階段を見下ろす場面。

そこからこの映像世界にグイグイ引き込まれていく。

館内を通り抜け、次の室へ入るカメラアングルはわずかに低めので進むが、これが逆に臨場感たっぷりで、実際に室内に入って行くときの圧倒的な雰囲気がよく再現されていた。

3D映像によくある、どーーーーっと来たのにスクリーンサイズからはみ出た時点でいきなり視界から消える(現実)。。。。というずっこけ感もない。

フレームアウトしたものは、単に視界から消えている感覚で、

自分でその部屋内に進んで行っているのだ。

 美術品の高画質3D映像といえば、NHKドキュメンタリー張りの、肉眼の限界を超える絵画の真実とか、彫刻の立体感再現への飽くなき挑戦のようだが、この映画は構想がそこではなかった。

たとえば、フレスコ画に良くある群集図。

前後に重って描かれる人物達個々をより立体的に、また距離感を起こし、まさに三次元空間に変換しようというものだった。

そもそも、ローマの街中にある教会の荘厳装飾もそうであるように、この映画に登場するシスティーナ礼拝堂ミケランジェロの天井・壁画群は、見るものをいかに圧倒し、思い描く天上界を具現化するため、高度な立体画法が多様されている。それを尚且つ2Dから引き剥がして立体化させるなど、画家が意図したことなのだろうかと、少し訝しんだのも正直なところだった。

けれどその実、そこが面白い試みだったわけで、画家が筆をとり、二次元へ落とし込むまでの「脳内」、そこに思い描かれていた空間世界の再現。が、そこにあった。その発想は絵を見る者にとっては新しい刺激だった。

その3Dの世界観には、画家が発する熱、感情の起伏、構想のプロセス、全てを捧げる大作へのエネルギーが、次々に息を吹き返していくようだった。

吹き替え音声で作品の説話が流れる中、画家の脳内にある神話がもう一度回り始める。

 

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 3D映画というと、なんだか色々飛んできたり、出っ張ってきたりと思いがちだが、その要の実は映像の奥行きで、観る者をその空間に引き込み、恰もその場に立ち会っているかの様な感情移入を引き出す効果なわけで、私が初めて見た3D映画の『Alice in wonderland』についても確かに、何かがが降ってきたり、トランプが飛んでくる位はあったが、圧倒的な印象はその映像美と色彩だった。

この映画に登場するのは当然絵画だけではなく、「ラオコーン群像」、「ベルヴェデーレのトルソ」と、現代人にはあり得ない盛り上がりを見せる筋肉の構造、肉体美、大理石の白い肌の裸体美に、手を伸ばしてしまいそうな距離感で舐めるように見せてくれる。

陰影で成り立つこの世界をより鮮やかに脳に刻み付け、両壁面いっぱいに並ぶ古代彫刻の1室を独り占めで眺める感覚。贅沢だ。 現実には入館にさえパスポート片手に長蛇の列の人人人、独り占めなどそうはいかないのに、もう一度いかねばなるまい。と思わされる。

ヴァチカン美術館ー天国への入口』がまず伝えているのは、その駆使された映像技術でもあるかもしれない。 ヴァチカン市国へは初めてのローマ旅行で先ずは訪れるスポットだし、その目的が余程信仰によるものでなければ、順路に導かれて、ヴァチカン美術館の主要スポットを通り抜け、気がつけばサン・ピエトロ広場に吐き出されスイス衛兵を隠し撮りしてその行程をおえる。 バチカン美術館が複数の館で構成されているなど二の次だし、欧州の美術史を意識せず観て回れば、階段の手摺りから床のモザイクまで眼に映るものすべて美術品という異次元空間でお腹いっぱい胸いっぱいになる。

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護摩で焚かれ、時代と共に劣化していく紙と木のモノクロセピア文化を、侘びだ寂びだと愛でる日本人にとっては、「ルネサンスの煌びやかなヨーロッパの歴史」、と一括りで旅の思い出、「ローマに行ってきた。」と折り目正しく仕舞い込むのも無理はない。
 
それではあまりに勿体無いのだ。
著名な作品が、何を表現し、何が評価されているのか、てんこ盛りの芸術作品の怒涛に押し出され帰って来ることにならないために、そこに何があるのかを確かめてから、それ等を目の当たりにすることが感動の第一歩だ。この映画が芸術鑑賞のプロセスをきっちり押さえてくれるはずだと思う。 それでこそ、駆使された映像技術結集プロジェクトの功績となる。
芸術とは、美術であり、デザインであり、工芸でもある。そしてそれが荘厳であり思想でもある、文明を築いてきた人間に一番身近なものなんだ。
なぜ、あんな稀代の荘厳芸術を見てそう感じるのだろう。 使い込まれた肉体の表現、何かに向かってギリギリまで伸ばす腕、迷いのない視線が、本当は直ぐそこにあるべきものだったはずなんだ。 神話の奇蹟の表現に、生々しい肉体の美を見ることで、「神」と「生身の生命」を同時に体現する。 信仰が文明の進歩を牽引し、そのギャップが古典回帰と新しい芸術を生む。最新の映像技術によって、時を経た宗教荘厳美が告げているものに気付きをあたえるってわけだ。

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以下、配布された参考資料より。

ヴァチカンミュージアム(Musei Vaticani)

 サン・ピエトロ大聖堂(Basilica di San Pietro in Vaticano)

  システィーナ礼拝堂(Cappella Sistina)

  ラファエロのスタンツェ(Stanze di Raffaello)

  ピオクレメンンティーノ美術館(Museo Pio-Clementino)

  ブラッチョヌオーヴォ(Braccio Nuovo new wing)

  ピナコテーカ(Pinacoteca)

  現代宗教美術コレクション

 

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主な登場作品

 ピエタ(Pietà ) ミケランジェロ 1498ー1500年、/サン・ピエトロ大聖堂

 システィーナ礼拝堂の『天井画』、『最後の審判』1506ー1541年

 アダムの創造 ミケランジェロ 1510−1511年

 アテネの学堂(Scuola di Atene)  ラファエロ 1509年 

       /ラファエロのスタンツェ(Stanze di Raffaello)/署名の間

 ラオコーン群像(Gruppo del Laocoonte)  

 ベルヴェデーレのトルソ (Belvedere Torso)

 キリストの変容(Transfiguration) ラファエロ 1516–20年 

 聖ヒエロニムス レオナルド・ダ・ヴィンチ 1482年

 キリスト降架 カラヴァッジョ

 ボルゴの火災 ラファエロ 1541年 ラファエロのスタンツェ(Stanze di Raffaello)/ボルゴの火災の間 (Stanza dell'incendio del Borgo)

 キリストの埋葬 カラヴァッジョ

 

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