大英博物館展@東京都美術館にいってきた。
100のモノが語る世界の歴史 大英博物館展
2015年4月18日(土) ─ 6月28日(日)
東京都美術館
ウルのスタンダード 前2500年頃 イラク
19世紀末から、欧米を始め世界中の研究者が中央アジア、ヨーロッパの古代遺跡発掘に乗り出した。中でも、フランス、イギリスの調査隊の成果は大きく、発掘された遺物の多くは、それらの国の博物館に収蔵された。
世界大戦が終わったのち、再開された調査も半ばで、ソ連の干渉、中央アジアの終わらない内戦により、現地に残された遺物はことごとく破壊され、略奪され、今なお姿を消していっている。
流出と思われがちな発掘品が、ギメ東洋美術館や、大英博物館へ多く収蔵されていたことは、不幸中の幸いなのかもしれない。
大英博物館から出展される100のモノ。
そう思うと、公開前から期待は膨れる一方。アレとアレとアレが見れればもうそれだけで十分。と荒くなる息を沈めて、会期を待っていた。
ロゼッタストーン(複製)の碑文 前196年 プトレマイオス朝
展覧会は、その時代を象徴するテーマで章分けされている。
言わずもがな、絞るは第2章〜第4章、余裕があったら第5章。。。。
各章の室内には大きな地図のパネルが設置され、展示品の出土地と年代がビジュアルで確認できる。
第1章 想像の芽生え(200万年前ー前2500年)
第2章 都市の誕生(前3000ー前700年)
第3章 古代帝国の出現 (前700ー後100年)
第4章 儀式と信仰 (1ー800年)
第5章 広がる世界 (300ー1100年)
第6章 技術と芸術の革新(900−1550年)
第7章 大航海時代と新たな出会い(1500−1800年)
第8章 工業化と大量生産が変えた世界(1800ー )
エピローグ 今、そして未来を語るモノ
今ある世界三大宗教が生まれるプロセスが、東欧と中央アジアにある。
アレキサンドロスのたった十数年の東征が、その後の文明の道行を左右したんだ。
コインに刻まれたアモン=ゼウスを模したアレクサンドロスの肖像。
アモン=ゼウスはアフリカ大陸に入植したギリシャ人が古代エジプト神アモンをゼウスと同一視した象徴。
このギリシャ人の造形欲の強さが、のちの日本仏教の根源なのではないだろうか。
ゾロアスター教徒像 オクソス川流域 前500-前400年
わずか5cm程度の吹けば飛ぶような金製の像だが、仏像史にはなくはならない習俗なのだ。この小指くらいの像を、泣きそうになりながら睨めつくした。
アフガニスタンとタジキスタンの国境の川、オクサス川(現アムダリア川)流域には、アイ・ハヌムという重要な遺跡がある。中央アジアに発生したギリシャ都市、のちにクシャン族に滅ぼされたバクトリア王国の都市の一部であったと考えられいてる。
アレクサンドロスが描いていたヘレニズム国家の要衝都市だったのかもしれない。
火焔信仰の為、息で吹き消さないようにマスクをしているらしい。愛らしいったら。
ゾロアスター教を国教とするクシャン朝は、シルクロードの要衝でもあるこの地で多民族を束ねて繁栄した。残されたギリシャ人の彫像文化と技術により、人の姿をした火焔背の像が求められるようになる。その後、2世紀頃の大乗仏教の発生が、クシャン朝への仏教隆盛を極め、仏像が東へと伝播していく。
釈迦像 パキスタン ガンダーラ 100−300年 ターラー菩薩像 インドガヤー地区 900−1100年
ガンダーラはインダス川流域、ガヤー地区はインド北東部、ブッダの聖地が各所にある地域だ。
2つの像は、年代こそ離れてはいるが、何よりも、造形が全く異なる。
神変の表現や、僧衣と、詳しく話せばきりがないが、ターラー菩薩像のそこにある大きな違いは、聖地が身近にあるゆえに偶像を必要にしなかった故、インド中央を通過し、ヒンズーの神々をなぞり遅れて伝わった仏像の姿だ。
一方のガンダーラはヘレニズム文化の好みを濃く残し、ギリシャ彫刻の一端を確実に見せてくれている。
6世紀、百済の聖明王から欽明天皇に、釈迦仏の金銅像一軀 が贈られる。
欽明帝は群臣に、
『西蕃の献れる仏の相貌端厳し。全ら未だ會て有ず。 礼ふべきや不や』
『日本書紀』
と、仏像の美しさに戸惑うように問ている。
日本が仏教と向き合った最初の時だ。
大英博物館展− 100のモノがかたる世界の歴史 −
人類の変遷の面白さが、なる程上手く演出されてる。
そして最後に、
東京都美術館が選ぶ「101点目」
紙管ー避難所用 紙の簡易間仕切りシステム4 2011年 坂 茂
一番最後の展示が、101点目、そう記憶に古いものではない。
東日本大震災の避難所に提供された紙管のパーテーション。建築家 板茂氏の「紙の建築」。2011の震災以前にも、新潟や、難民シェルターなどに提供されていたのを今回初めて知った。
命や物を一瞬にして奪い去られたのち、水や食料が第一なのかもしれないが、精神を支えるための自己の空間の重要性は忘れられがちだ。この極簡易的な骨組みと白くしなやかな布のパーテーションをテレビで見たと き、こころから「よかった」と思えたモノだった。
美術とは、特に日本では、実用を満たすための工芸から発展したものが多くを占める。最後の一点のこの展示が、「現代も悪くないんだな」。と思えるフィナーレだったな。
この100点、何かテーマを絞らなくては、時間より体力がもたない。
文明の歴史とは、必ず何かが繋がっている。それに気がつくと無限に時間軸を行ったり来たりして、今ある奇跡がリアルに輪郭を見せ始めるんだ。
先人たちの生きた証に、敬意を表したい。
そして現代は、データではない、何を3000年後に残せるんだろうって、考えた。
100のモノが語る世界の歴史 大英博物館展
2015年4月18日(土) ─ 6月28日(日)
東京都美術館
※すべての画像は主催者の許可を得て撮影したものです。