びぶりおてか

私家版 Caffè Biblioteca

シャーロットさんのおくりもの

月が綺麗な晩に

f:id:itifusa:20151028000921j:image

 

シャーロットさんがいなくなった。
蜘蛛の生態なんてぜんぜん知らないから、名前などつけたら別れの時に辛くなると思っていたけど、やはりそれは突然やってきた。

シャーロットさんは賢い蜘蛛だった。
はじめてウチに来た朝、勝手口のドアに立派な巣を張っていたため、私が図らずも出がけに解体してしまうことに。


その場で、人との共存についてと、設営可能ポイントを指し示し、15分ほど説教した。
シャーロットさんはそれを、移動して巣を修復しながらちゃんと聞いていた。なぜなら、次の日、私が指し示したポイントを使って、立派な巣を完成させていたのだ。人が出入りしても絶対に引っかからないポイントを使って。

 

そうやって、勝手口のシャーロットさんとの暮らしが始まった。
家族全員がシャーロットさんを見守り、背後に常夜灯のあるシャーロット邸は大物かかり放題。
見る間に10センチ大の女郎蜘蛛に成長し、家の周りで一番立派な蜘蛛となっていた。

 

そんな日々のかな時には、

シャーロットさんはこのまま冬を越すことはできないということ、

オスかメスかもわからないこと、

いつかはこの巣を残していなくなってしまうのかもしれない。

なぜいなくなったかの理由はわからないままになるのかもしれない。

死んでしまったのかもしれないし、私が知らない天敵に襲われたのかもしれない。

単に転居してしまっただけなのかもしれない。

けど、その時に、私はおそらく本当の理由もわからず、この共存は終わってしまうのかもしれない。と想像して切なくなったりすることもしばしば増えてきていた。

 

今日はまさにその日だった。

シャーロットさんとは、帰りが遅くなった昨晩にコミュニケーションをとったのが最後だった。
昨晩も大物のマツムシを捕獲し吸引中であった。
「お、今晩もご馳走だね♪」と声をかけた私に、吸引を止めることなく一瞥をくれた。


今朝、私は勝手口から出かけずに、玄関から出たため、シャーロットさんにはあっていない。

シャーロットさんとの別れは予感していたものの、
小さな子供達を残されて、悲鳴を上げつつも、一匹づつに軒下を配分したり、
「エリコハヨイコ」などと、メッセージを残してくれるのではいかなどと、感動的なエンディングすら想像していたが、あまりに突然であっけなく。

 

このまま、主人を失い残されたシャーロットさんの巣は荒廃していくのだろう。

なんだか寂しい。


シャーロットさん、さよなら。