バーミヤン東窟天井画に望みて
現在東博で開催されている、特別展「黄金のアフガニスタン」に連動する東京藝大での展覧会。
失われてしまったバーミヤン石窟の大仏。その頭上に描かれていた天井画を藝大研究室が復元。
その徹底した作業に対し、天井画を前にして惜しみない拍手を送りたい気分であった。
たとえどれ程精巧に作り上げられても、所詮はニセモノと思う方もいると思う。
でもその復元制作の意義、そして指揮を取られた東京藝大の宮廻教授のの言葉が、この天井画の復元を目の前にして、とても重要に感じられる。
「(前略)遺跡は失われましたが、訪れた人がこの復元を見て、以前の様子を知ることができる。そして、
破壊という行為は無意味だというアピールにもなればと思っています(後略)」。
(月刊 目の眼 第四百七十四号)
傀儡の思想が暴走し、破壊行為に及ぼうとも、先進文化最新鋭の技術をあますことなく駆使し、その肖像を復元してみせる。テロリストの所業など、それ程無益なものなのだ。
天駆る太陽神 中世イスラムの侵攻により他宗教が迫害、寺院の破壊が進められる中、イスラム教でも太陽神が最高神とされるため破壊を免れたと考えられている。
それほど、太陽神というものは宗教史にとっては重要な存在なのだ。
この復元により、この世界観から読み取れるものは数え上げたらきりがないほど、宇宙そのもの。
ラピスラズリの青が美しい。
ものによっては過半が欠損しているものもあるが、深読みすればするほど面白くてたまらない。
太陽神が乗るのは4頭の有翼の白馬に引かれる戦車、
両脇侍、武装した有翼の女神。その頭上には冠帯垂らす半身半鳥の霊獣。
太陽神の頭上には白い鳥、これは梵天が乗るハンサと言われている。
ほら、風神。どこかで見たことある構図でしょ。
天井画の復元においては、下地となる土壁の再現から始まっている。
藝大会場の1階では、その復元された下地を直に手で触れて感じることもできる。
これが、あの地の、土なんだ。
前田先生が訪れた当時は、東大仏の頭頂部、肉髻が削り取られた部分まで上がることができ、天井画越しにアフガニスタンのパノラマを望むことができたそうだ。
その光景は実際に昨年、現地スタッフにて4K撮影が行われ映像化されたもので実感できるようになっている。
今の私たちには行くことのできない、現在のアフガニスタンの大地だ。
見るまでは作り込み過ぎなのでは。。(ごめんなさい)と思っていた、千住氏書き下ろしのBGMも不思議と溶け込んでわずかに響き、わるくないなー。
2Fにある賽銭箱へ一口千円以上で修復報告の冊子がもらえます。
冊子の中央ページの見開きには、タリバンに破壊される前の大仏、在りし日の姿と、背後にはアレクサンドロスの行軍を怯ませたヒンドゥクシュの銀嶺が連なる。
なんて美しいのだろう。
冊子の中央ページの見開きには、タリバンに破壊される前の大仏、在りし日の姿と、背後にはアレクサンドロスの行軍を怯ませたヒンドゥクシュの銀嶺が連なる。
なんて美しいのだろう。
白馬は見えづらくなっているけど、2頭づつ左右に描かれています。
東大仏破壊後、現地調査へ入った研究者達は、僅かでも障壁画の痕跡が無いか、残骸を調査したが、壁画の顔料を含む破片などが一切見付からなかったという。
一部の証言では、破壊前、既に天井画部分には絵はなく、くり抜かれていた状態であったともあり、テロリストの資金調達の為、古美術品として予め持ち出されていた可能性もあると考えられている。
誰も口には出さないけれど、今は僅かながらも、如何なる方法であってもどこかで現存している事を願っているのだと思う。
月刊目の眼 2016年3月号 (戦禍をこえて 東と西をつなぐ古代美術)