びぶりおてか

私家版 Caffè Biblioteca

佐野は葛生のたび

世間は紅葉狩り真っ只中の三連休最終日。
つべこべ悪態をつきつつも、時間に追われない僻地への電車の旅は好きなのだ。
葛生」という地名も、なんだか響が好きだから気になる。
 
来てみれば、東武鉄道佐野線のどん詰まりである。
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駅前は、南側に広大なメガソーラー「葛生太陽光発電所」だそうだ。
北側はお寺さんのこれまた広い墓所が広がる奇跡の地価だ。
 
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周りの山は関東の黄葉が柔らかい。
 山間部から掘削した土を運ぶダンプばかりが行き交う、地方の幹線道路。
埃っぽいから避けて住宅街を抜けて歩くと、民家のポストなどへ手書きされた住所に、「安蘇郡葛生町・・・」と残されている家がまだ大分あった。
葛生の地名は、万葉集 東歌にある恋歌(比喩歌)に
 上毛野阿蘇山葛野を廣み延ひにしものを何か絶えせむ(巻14-3434)
と土地を名指しで詠まれていることからも、よほど葛がはびこっていたのだろう、その土地柄由来と考えられているそうだ。
この歌にある葛は葛藤のことだそうで、蔓性植物。その一種がうちの裏の土手にもはびこるが、その強さと粘りを思うと、なんとも想われている方も気の毒になる程重い比喩だ。。。
 
f:id:itifusa:20141124234156j:plainそれほど悪くないダイヤだと思う。
 
第一の目的は、吉澤記念美術館で公開されている、伊藤若冲の『菜蟲譜
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駅に着くなり、町を挙げての若冲祭りだった。
 
f:id:itifusa:20141124234239j:plain採石車両の展示も若冲押し。
 
佐野って他に何があるんだろう。。。とFacebookでつぶやいていたら大先輩から、
鎌倉5代執権北条時頼の廻国説に因む、謡曲『鉢木』。
佐野源左衛門の佐野だと、素敵なヒントをいただいた。
 
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鉢木という町名があり、願成寺というお寺さんに佐野源左衛門常世の墓があるという。
駅からは徒歩で25分ちょっと。電車もなければバスもない。
駅前にタクシー乗り場の看板はあったが、タクシーの姿は、道路を走る姿さえ見なかった。
一人1台の車社会なのだ。
 
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臨済宗建長寺派 梅秀山願成禅寺 とある。
藤原秀郷の開基、建長寺は時頼建立。
宗派はちょくちょく変わることがあるので、いつからなのかはわからないけど。
 
謡曲鉢の木→鎌倉殿→佐野源左衛門常世→東国の老武者→好き(三浦義明など)
建長寺→5代執権北条時頼明月院(好きなお寺)
藤原秀郷→秀郷流→西行→好き
 
たくさんのキーワードが重なると、
「ちょっと寄って行きなさい」と言われているようで。
ご縁だね。
 
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お参りの方の為に大分配慮されており、訪ねやすい。
 
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僧の「鎌倉」の言葉に呼応するかのように、重いはずの武士の口が、
腹に据えた信念を語り始める。

 運の尽くる処は、最明寺殿(時頼)さへ修行に御出で候上は候。
 かやうに落ちぶれては候へども、御覧候へ、これに物具一領長刀一枝。
 又あれに馬をも一匹つないで持ちて候。
 これは只今にても、あれ鎌倉に御大事あらば、ちぎれたりとも
 この具足取って投げかけ、錆びたりとも長刀を持ち、
 痩せたりともあの馬に乗り、一番に馳せ参じ着到に附き、
 さて合戦始まらば、敵大勢ありとても一番にわって入り、
 思ふ敵と寄り合ひ打ちあひて死なんこの身。
 このままならばいたずらに、飢に疲れて死なん命、
 なんぼう無念の事ざうぞ。
  <中略>
 言葉乃末を違ずして、参りたるこそ神妙なれ。
 まづまづ今度の勢づかひ全く予の儀にあらず。
 佐野源左衛門尉常世が言葉の末、眞か偽りか知らん為なり。
 何よりも切なりしは、大雪降って寒かりしに、秘蔵せし鉢の木を切り、
 火に焚きあてし志をば何時の世にかは忘るべき。
 いでその時乃鉢の木は、梅櫻松にてありしよな。
                      謡曲『鉢木』※
 
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 激動の時代に生きる人たちの、心根の強さを感じる美しい言葉の流れだ。
とても良いものに触れられた旅だった。
 
 
※出典がわからなくなってしまった。閉館前の図書館で書庫から金帯資料を何冊も出してもらって、とりあえずコピーしまくってきたので、書誌を書き留めるのを忘れた。複数の資料をつなぎ合わせた。