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観音の里の祈りとくらし展Ⅱ びわ湖・長浜のホトケたち@東京藝大美術館2016/07/05〜

観音の里の祈りとくらし展 II −びわ湖・長浜のホトケたち−

東京藝術大学大学美術館 本館 展示室3、4
会期: 2016年7月5日(火)- 8月7日(日)午前10時 - 午後5時(金曜日は午後8時まで)

長浜の観音がフルキャストでおでましだ。

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十一面観音立像 平安時代 像高145.4cm 長浜市木之本町 医王寺

かつての天台浄土教のお膝元に深い森と豊かな湖がある。

滋賀県 湖北 長浜の村々で、今も厚い信仰のもと日々の祈りを捧げられているお像が、よくぞここまでお借りできたというほどの勢揃い。 

f:id:itifusa:20160704205801j:image展示室内は一部と文献資料以外はすべてガラスなし。お堂からお出まし頂いた有りの侭のお姿で御ましだ。

くれぐれも抱きついたりしないよう、気をつけたい。

 

「みどころは」といったって、それはもうこの展覧会自体が貴重な機会なので、

  「湖北の観音像が湖山越えずに一日で43軀コンプリート」

 自力でのコンプリートはまず無理ですから。

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十一面観音菩薩立像 室町時代 像高110.8cm 長浜市余呉町国安自治会蔵 

 遠目からも目を引く、体躯の黒みが強く、殊の外ふくよかな頬をした立像。

髻を結い上げる櫛目も豊かに刻まれ、両肘からふわりと浮く天衣と下裙(裳裾)のドレープの表現も美しい。
真っ先にこちらのお像の方へ向かってしまった。

一体どんなモデルがいたのだろうか。

 

だが、真っ先にお越しを報告しなければならないのが、この方かもしれない。
いらしております。千手千足。

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千手千足観音立像 江戸時代 像高42.1cm 長浜市高月町 正妙寺蔵

江戸時代というだいぶ時代を下ったお像だが、やはり他に類例を見ないという造形のお像。

みうらじゅんいとうせいこう見仏記で、一躍有名になった感はあるが、実際にどこに行けばお会いできるのか、という方も多いのではないだろうか。 

今なら、こちらでお会いできまする。

奇想天外この図像。江戸時代という、民衆文化が大きく前進した時代故の発想なのかと思っていたけれど、図録に以下の記述があった。

 ー鎌倉時代の天台系図像集『阿沙縛抄』『白宝抄』に「千足観音」の記載が見られ、

 この地に千の足を持つ像が伝わる背景には、台密の影響があったことが窺われる。

 なお、今回、周囲ぐるっと見て回れるため、禁断の後ろ姿が。

f:id:itifusa:20160705003122j:plain松葉蟹ではない。

 

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観音菩薩立像 1216年(建保4年)

像高172.7cm 長浜市余呉長菅並 洞寿院 観音堂安置

ヒノキ一木造の等身像。彩色のみられない胴体は節や木目をそのままにした素地で仕上げられ、肩から背面にかけては多くノミ目を残している。

宗旨が変わった際に別途、観音堂を設けられたのかと想像するが、
33年に一度ご開帳となる秘仏とのこと。
今年の9月がちょうど33年目のご開帳の年とのことで、一足先に、しかも、お堂を出て展覧会初登壇。申し訳ないような気もするが、
人の信仰によって守られてきた本義の姿に、私たちはここで触れられるのだ。
是非、お会いになってほしい。

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ヒノキの大木の節の部分の前に、ちょうど右手の印が。放射効果が感じられませんか。

平安から鎌倉のお像が驚くほどの数で残される里山
民間信仰の色濃いお像は、良い意味で図像にとらわれることなく、貴族や政治から離れ、比叡の麓でいかにして仏教が民間に浸透して行ったのか。
木彫のお像の、頬や肩、胸部や掌にみえる鉈目や、木目と節。
目で辿れば、その厚い信仰の変遷が見えてくるのです。

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聖観音立像 平安時代 像高178.8cm 長浜市弓削町 来現寺蔵

展示室内、中央におわすのがこのお像。
ゆるく右足を外向きに出し、裾に広がる造形が、体幹のすわった雄々しい立ち姿にしている。
かっこいいな、、、と周りを何周もして見入ってしまった。
図録にある弓削町の由縁など、興味深い記述がある。
いずれ、この町にも訪れてみたい。

土着の信仰、霊木と立木仏、本地、浄土への祈りと観音が表す神変、感得。と、滋賀の観音像が持つ貴重な歴史は、日本仏教の姿をありのままに伝えてくれる、あぁ、もう想像しただけでヨダレが。。。。

殆どの仏様が、中世の戦乱や廃仏棄釈以降、村人の当番制によって守られてきている、民間信仰のあり方を今に伝える貴重なお像。
再度、時間をかけて、ありがたく拝見しに行こうと思っている。

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図録はB5版でハンドブックタイプ。ちょっとした長浜ガイドブックになる。
巻末に『持論』として解説者のコラムが複数掲載されている。その中で特に印象的だった一譚がある。

 

 ー借用の際、「足に毛布でも掛けといたってくれや」と(世話方に)声をかけられた。戦火から守るために川に沈めて、手先・足先を失ったと伝える像である。堂内での拝観では目立たないが、明るい展示室では足元まで見えるので、痛ましい姿を気づかってのことである。
   『びわ湖・長浜のホトケたちII』p148
   「ウチの観音さん〜湖北の人々のホトケに対する思い〜 佐々木悦也 著

 

言いたいことはまだまだ山ほどあるが、以下はせっかくなので画像を掲出。
観覧者の好みによって、2時間や3時間はあっという間に過ごせる展覧会になっている。

藝大、今回もいい仕事されてます(涙

観音の里の祈りとくらし展 II −びわ湖・長浜のホトケたち−

東京藝術大学大学美術館 本館 展示室3、4
会期: 2016年7月5日(火)- 8月7日(日)
午前10時 - 午後5時(金曜日は午後8時まで)

 

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持国天立像 平安時代
像高182.7cm 長浜市木之本町 石道寺蔵

本尊脇に祀られる、十一面観音立像と両脇侍、石道寺さんは大盤振る舞いの御三家でおましです。持国天邪気の踏まれっぷりをご堪能ください。

 

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馬頭観音マニア垂涎の3軀手前から、

馬頭観音座像 平安時代 103.2cm 
長浜市西浅井町山門自治会

馬頭観音立像 平安時代 99.6cm
長浜市高月町 横山神社

馬頭観音立像 鎌倉時代 80cm
長浜市西浅井町 徳円寺

        右画像は徳円寺像の足元。

f:id:itifusa:20160704210454j:image薬師如来立像 平安時代 159.4cm
長浜市高月町 充満寺

 後補部分が多く見受けられ、補修のための漆塗りの赤が特徴的なお像だが、しっかりした安定感がよかった。

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 聖観音立像 平安時代 100.1cm  長浜市宮司町 総持寺

 

 

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観音の里の祈りとくらし展 II −びわ湖・長浜のホトケたち−

東京藝術大学大学美術館 本館 展示室3、4
会期: 2016年7月5日(火)- 8月7日(日) 午前10時 - 午後5時(金曜日は午後8時まで)

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