アフガニスタン文化研究所 定例研究会にて
アフガニスタン文化研究所 54回定例研究会を、今回も拝聴させていただく。
御茶女国際協力研究室の青木氏による、現在の外交と安全保障についての報告。
青木さんは、2007年の退去勧告以降、公的職務でアフガニスタンに入られていた数少ない邦人。多くの画像資料と、現状をフルボリュームでお話しくださった。
以下はそのメモに個人的な感想をあわせて。
2014年末の米軍をはじめとする多国軍戦闘部員配置の削減と戦闘から側面支援への変更は、自国軍12千しかもたないアフガニスタンの治安に大きな空白を与える。国土は日本の約1.8倍。多民族国家の上に山脈の向こうは四方全て諸外国と地続き、他国の武装勢力も後を絶たない。自国軍の数に反映される現在の国力では取り戻すべき治安の安定など遠い話だ。
一方でターリバーンとの和平交渉も完全とはいえない。彼らは米軍が行った "正当性のない空爆"を決して許さず、全てが撤退するまでは攻勢を止めないことを主張している。
彼らの国政への参加も軍政議席を増やすことでバランスの維持はますます容易ではなくなるのではないだろうか。
インフラ整備はゆっくりとも進んでいる。カーブルを中心に各国の支援で複数の鉄道の敷設も計画されている。武装勢力の妨害を恐れつつもそれらが成功すれば、少なからず情勢は改善されるのだろう。
永続的な観光資源がある事を忘れないでほしい。
カーブルの現在の夜景写真が映し出された時、内戦前のカーブルを知る諸先輩方が一斉にあげた歓声はとても心に残った。
カーブルや主要都市を少し離れれば、固有の民族が、その大地に暮らす。
今現在まで何世紀もの間、その生活形態を変えることなく継がれてきた民族の血に、他国の軍事力による制圧がどの様に写っているのだろう。それらのやり方で解決の日が訪れるのだろうか。
カーブルを中心とした敷設予定の鉄道路線図、ドイツ支援のラインだったか、経由地を繰り返し確認して「これが轢かれたら、ティリア・テペまで鉄道で行けるじゃないか」と声を張った前田先生がなんとも印象的であった。これは、その苦労をご存知の方には是非もない話であろう。
願わくば近い将来、あの美しい大地に自由に降り立つことが出来る日がくることを心から願う。
『メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館3D/4K』試写会にて
今夏公開の映画
『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館3D/4K』
試写会と美術史家の池上英洋氏登壇のトークイベントへ。
見終わってからの第一声が、池上英洋氏と同じ
「ドローンってすごい」
だったので、本当にすごいんです。
いえいえ、この「すごい」には、
①冒頭、フィレンツェを取り囲む森を抜け、遠くに赤レンガ屋根の街がだんだん近づいてくる。サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂が。。。。という血がたぎってからだが熱くなるほどの素晴らしい空撮。
②雨ざらしなのが信じられないほどの街の彫像を見事な構図でなめていく映像カット。
③そしてドローンが搭載しているであろう4Kカメラの凄さ。
といったこの映画すべてへの賛美が込められているのです。
おそらく時間的には、ウフィツィ美術館内へ入っていく(ドローンは入っていかない)までの映画前半がほぼ、ドローン大活躍映像。その映像にストーリー性が盛り込まれ、登場人物の語りとともに、時間を超えてフィレンツェを概観、ストーリーにどんどん引き込まれて行っているという、イタリアファンは没入間違いなしの展開でした。
もう、予告だけでも何回も見てしまっている。
昨年の「ヴァチカン美術館4K/3D 天国への入口」から更に内容はグレードアップしていて、作品解説で進めていく形式は同じだけど、映像とドラマチックなストーリーは90分の集中力を難なく持続させてくれる。
冒頭の森を抜け、赤レンガの大聖堂を越え、場面が落ち着いた屋敷の中に変わる。
あれ?美しい光沢を帯びたシルクのスーツに、目にも鮮や、かまーっ赤っかのストールをかけた紳士。
もしや(まさか)と思ったが、ご想像の通り、時空を越え現代のスーツに身を包んだロレンツオの霊だった。
個人的には見ているうちに、だんだんあのロレンツオの肖像に似てきたし(顎のあたり)、結構かっこよかったようなきがする。。。>幻想?
美術品の数々を、禁を犯しているのではないかとどきどきするような視点から、精密映像で舐めるように映し出してくれる。
実際に見れない角度や近さで見る人物たちの表情と視線は、これまでとは全く違った姿で、このイメージを蓄えて改めてフィレンツェへ乗り込んで行き、彼らと対面したいという欲望が疼く。
そしてまた、バックに流れる音楽がとてもよくて、映像とともに重厚さや、歴史が持つ生命力を彷彿させてくれるし、最先端技術の映像作品の鑑賞とはこういうことなのか。と、感動はより一層増すばかり。
これは本当に、大きなスクリーンの映画館でもう一度観なくてはいかん。
ウフィツィ館長(-2015)ナターリ氏の解説は作品が持つ思想,哲学を、構図や構成から読み取る古典文学の知識の重要性を説く。
イタリア視覚芸術の鑑賞方法が一変する内容。
映画『フィレンツェ,メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館』オフィシャルサイト「作品解説」
イル・マニーフィコが重要視していたのが、哲学者や詩人だった。とりわけ詩人は神の言葉を写すとして尊ばれ、その詩人たちが編む歌を、視覚化するのが、画家や彫刻家だった。
※手持ちの画集より
この映画に紹介されるロレンツオゆかりの絵画の数々は、それぞれが、それらの思想や哲学、美しい言葉のやり取りをいとも具体的に構図として表しており、歴史を紐解くことによって、構図のストーリーが動きだす。
これはたまらん。
フィレンツェに行かなくては〜。
「東方三博士の礼拝」 レオナルド・ダ・ヴィンチ
来年あたり、ダ・ヴィンチの"東方三博士の礼拝" だのネロの黄金宮とか修復後公開(されると勝手に決めている)楽しみだ。
そうだ。イタリアにいかなくては〜。
映画『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館3D/4K』 | 弐代目・青い日記帳
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冒頭の空撮の話の繰り返しにはなるが、
この先に目指すフィレンツェの街が本当にあるのだろうか、というほどの原生林から光の射す方へ向かい、フィレンツェを取り囲む丘陵地の森の上空に抜ける。
13世紀の金融バブルの折の建設ラッシュのにより、そのほとんどの森はことごとく伐採されていたため、当時の絵地図を見ても、禿げたなだらかな丘陵帯が描かれている。
だが、14世紀、ダンテや、15世紀のマキアベッリが、無念にもフィレンツェ後にし、この森を抜けて行ったのかもしれない。と想像すると、潤いある緑の上を滑空するドローンの活躍に、席を立って拍手喝さいしたい気分だった。
ここに、ナターリ氏が力強く訴えていた、構図が意図するものとは、どういったことなのか。1篇の詩を紹介したい。ロレンツオの弟、ジュリアーノが催した馬上槍試合を記念して、詩人、アンジェロ・ポリツィアーノが書いた作品だ。
『馬上槍試合のためのスタンツェ』
けがれのない白、それは彼女、その服さえ清らかな白だが、
ただバラはもちろん花々と緑の草が描かれ、
輝く禁の前髪が巻きながら、
謙虚に誇らしげな、その顔にかかっている。
彼女は楽しげな緑の草原の上に座り、
自然がこれまでに創造したあらゆる花々で
編まれた花冠を載せていた、
その同じ花々は衣にも描かれていた。
そして若者が気がついたその瞬間、
わずかに怯えながら顔をあげ、
それから白い手で裾をつまんで広げながら、
溢れかえるような花の中に立ち上がった。
そして、まるで空が隅々までを輝かせたのと同じように、
喜びのひろがる顔に微笑みをあふれさせながら
草原のうえでゆっくりと歩みを進めていった、
愛を呼び起こさずにはいられない慈しみに飾られた様子で。
そして(ジュリアーノは)見つめながら想い続けている、
彼を苦しみから助けようなどとは思わぬ彼女を、
心のうちで、彼女の天井にあるかのような甘美な歩みと
天使の衣の羽ばたきをたたえながら。
ポリツィアーノ『スタンツェ』第1巻第43,47,55連 原基晶(訳)
2016年 勁草書房 『ボッティチェリ《プリマヴェラ》の謎』
槍試合の勝者へは、一番美しいとされている女性が女神ニケに扮し、月桂冠を授ける。
その女神の役に選ばれたのが、シモネッタ。一部ではプリマヴェラのフローラ女神のモデルと言われた女性だ。この際のシモネッタの姿を歌ったこの歌の表現が、プリマヴェラのフローラの姿と一致すると言う事が、その理由。
あくまでも論を二分する片方の主張ではあるけれど、映画中、ロレンツォ氏やナターリ氏の言ってる事が一致して、わかりやすくなる。こういった予備知識をもってイタリア古典、視覚芸術を鑑賞する奥深さが、中世からルネサンスにかかる「芸術」の面白さなのがよくわかる。
よい作品をいち早く観れた事に感謝いたします。
イタリアいきたい。。。。
ボッティチェリ《プリマヴェラ》の謎: ルネサンスの芸術と知のコスモス、そしてタロット
4k映像によるバーミヤンの豊かな景色を望む
公開もあと1週間となった藝大のバーミヤン天井壁画復元公開。
あの4K映像がもう一度観たくて、都合よく時間がつくれたので覗きに行ったら、前田先生がお出でだった!
そしてにわかに解説が始まり、すでに観覧者もだいぶいたけど、どんどん増えて室内は熱気むんむん。
緑豊かなバーミヤンの風景が4K映像で壁面一面のスクリ
その風景をくまなくご説明くださる前田先生。
現在のバーミヤンの平和で美しい4K映像を見ながら、地理を含め、玄奘さんの通った古道や中世イスラムの城塞に起こった史実など、この地に残る豊富なエピソードを交えてみっちり1時間に及びお話になられた。
さすがパワフル!
この会場で映し出されているバーミヤンの4K映像はすべて昨年から本年に渡って現地スタッフにより撮影された最新の姿。
荒れ果てた闘争の大地のイメージを払拭する平和で美しい土地と文化が復活しているのです。
石窟群向かいにある丘陵地からの景色。
東大仏の頭頂部まっすぐ上空に北斗星が位置する。
その意味が成すところにより、東西大仏の建立期論争にも進展が与えられた
東大仏の東側壁画
頭部むかって右側に、僧侶に先導されバルコニーへ降
初夏が近づけば、山脈からの豊富な雪解け水が、また大地を緑に彩ります。
平山郁夫氏が大仏の再建を反対した理由にはまだ多くの理由があるという。
バーミヤンの岩壁を切り出した大仏の石材はその土地の地質上、あまりにも脆い材質だった。破壊され残った断片をつなぎ合わせ再生するには莫大な費用がかかる。そのため、大仏再建の声が上がった時、コンクリートを使って新たに仏像を再建しようとしたのだそう。
左奥、山脈の手前にあるのがシャリ ゴルゴラ。「嘆きの
イスラムの城塞だったが、13世紀チンギスハンの侵攻と
嘆きの丘の頂からの眺め。
手前北より、画面中央の南へ向かう緑の道筋が、玄奘さん
東大仏頭頂部バルコニー位置からの眺め。
左にあるなだらかな窪地は5月頃になると山脈の雪解け水
そこで僧侶たちが沐浴をする、れっきとした仏教遺跡。
火焔仏とゾロアスター信仰との関係についてご説明中。これも重要な要素の一つ。
釈迦誕生譚の寄進についてのご説明される前田先生。
大仏の断片は現在も再建の時を待ち、大切に保存されているそう。現地の人々が望めば、いつかその再建の計画は動き出す。
今回の天井壁画複製によって、もろく扱いにくかった材質の研究も進み、コンクリートではない大仏の再建が望める。
破壊の無意味さを現代の智性の結集で指し示す時が来る。
玄奘三蔵、シルクロードを行く (岩波新書) 前田 耕作 (著)
2016年4月12日(火)― 6月19日(日)[ 入場無料 ]
東京藝術大学 大学美術館陳列館(東京都台東区上野公園12-8)
[ 開館時間] 9:30~17:00(入館は16:30まで)※月曜休館
ゼウス左足ト残宴ノユフベ
とうとう最後の一枚を消化。
もう会えることもないであろうゼウスの左足に最後の挨拶。
名残の夜を惜しみ、舐めるように愛でてきた。
このゼウスの左足は、仏像の変遷にどう向き合えばいいのかを自分なりに気づかせてくれた、私にとっては重要な、「失われた遺物」だった。
このゼウスの左足が日本へたどり着いたのも、恐らくその時期であったのだろう。
日本に保護されていた事を知った時の私の衝撃といったら、
東博 黄金のアフガニスタン展ニ涙ス
「自らの文化が生き続ける限り、
その国は生きながらえる」
いまやアフガニスタンだけでなく、西アジアでも宗教主義の名の下に古代遺跡が破壊されていくのも然して驚くほどのことでもなくなってしまった。
痩せこけた主義主張に古の人々が育んだ知性と文化は揺らぐことなどない。
瓦礫の山で見栄を張る信仰心など足元にも及ばないものがそこにはある。
信仰の清浄はすでに彼らを見放しているのだ。
先日閉幕したばかりのボッティチェリ展で記憶に新しい「パリスの審判」
嫉妬深い女神に投げ入れられた金のリンゴの争奪戦が引き起こす神話は
その後の歴史(?)を驚きの方向へ導く。
三人の中で誰が一番好みか(そうは言っていない)と、
熟女の挨拶代わり並の質問を投げかけられたトロイアの王子パリスは見返りの「愛」を選び、「あんたが一番」と記される金の林檎をアフロディーテへ手渡す。
ヘレニズムの時を経て、有翼に描かれるようになったのか。
果実を持つ女神像は何を表しているのか。
どれも、この土地の王都が変遷してきた時の流れの中にきちんとした理由があるのだ。
また、このドキュメンタリーで見た。日本で保護されていたゼウス神像の左足を含む流出文化財及び、カブール博物館の秘宝は東博アフガニスタン展と併せ、東京藝大の展覧会を通して、実物の殆どを観る事ができる。
展覧会後流出文化財は返還されれば、日本人はアフガニスタンへの立ち入りは当分できない事が見込まれているので、是非今のうちに見に行って欲しい。
メス・アイナク仏教遺跡、地下に眠る鉱床は、中国が30年の採掘権を獲得している。30年を待たずに資源は掘り尽くされて、取り返しのつかない真の砂漠になるのだろう。
2016年4月12日(火)― 6月19日(日)[ 入場無料 ]
東京藝術大学 大学美術館陳列館(東京都台東区上野公園12-8)
[ 開館時間] 9:30~17:00(入館は16:30まで)※月曜休館
バーミヤン東窟天井画に望みて
天駆る太陽神 中世イスラムの侵攻により他宗教が迫害、寺院の破壊が進められる中、イスラム教でも太陽神が最高神とされるため破壊を免れたと考えられている。
冊子の中央ページの見開きには、タリバンに破壊される前の大仏、在りし日の姿と、背後にはアレクサンドロスの行軍を怯ませたヒンドゥクシュの銀嶺が連なる。
なんて美しいのだろう。
月刊目の眼 2016年3月号 (戦禍をこえて 東と西をつなぐ古代美術)
アイハヌム・ゼウス像 想定復元 @東京藝術大学陳列館
藝大で想定復元されたゼウスの胸部までの像が現在公開されている。
ゼウス神像左足の実物は連動する東博のアフガニスタン展で日本に限って公開されているが、サンダルのハナオ部分(これが多くを語る大事な部分)から爪先の約30センチほどの大理石製破片。
東京藝術大学アフガニスタン特別企画展」
東京藝術大学 大学美術館陳列館 2016年4月12日(火)― 6月19日(日)
「アイハヌム・ゼウス像」の想定復元は、藝大に拠点を置く研究室が世界中に残るゼウス像の形態を研究し尽くした結果として復元されたそう。
そう言われてから改めて東博展示の遺物を見てみると、本当だ、確かに土踏まずのあたりから微妙に傾斜しているのです。
個人的にもつ、豊かな髭を蓄え、少し年配のゆったりした貫禄をもつゼウスのイメージとは少し違うのだけど、ギリシア彫刻の流れを直流で受け止め、
今まさに活気ある都市が求めた大神像とは、誰にも勝る瑞々しさと力強さの象徴たるものだったに違いない。
その後東伝する宗教彫像文化を、習俗を、どれだけ動かした事だろうと思うと、その胸にすがりつきたくなる。
研究室の皆様、良い仕事をしてくださった。